Grace sorprendente  二章 5 




翌日。
店を教えてくれたお礼も兼ねてルメリオ亭に再び訪れ、ディーにまだ会っていなかったケントとリヴィという少年少女を紹介してもらってから、こう切り出された。
「知り合った縁ということでこれはサービスだ。ちょっとした情報を教えとくよ」
側にいたジルがまたかと言うような目をするのを無視して、ディーはまるで誰にも聞かれないように極力声を抑えて話し始めた。
「最近、ここらでちょっと物騒な連中が滞在している。しかも結構な人数だ。お陰で宿屋の奴らは儲かってるけどな」
(あれ?ということは宿がほとんど満室だったのは…)
こんな所で泊まる宿がない理由を知るとは思わなかった千歳。
そんな心中を知らず、ディーは話を続ける。
「どうもその連中がどこのモンなのか誰一人分からないらしい。宿の奴らは儲かりゃなんでもいいかもしれんが、飲み屋とかで結構トラブルを起しているらしくてな。お嬢ちゃんもそいつらに絡まれないように気を付けろよ」
そう言ってからディーは一口手に持っていた酒を飲んだ。
「わかりました。気をつけます」
千歳は頷く。
何も知らないよりは教えてもらった方が良いに決まっている。
特にトラブルを起している連中というなら、もしかしたら千歳自身が巻き込まれる可能性だってある。
もしそうなった時に、知っているのと知らないのとでは判断の速さも違うだろう。
「話はこれだけだ。もっとも、何かいいモノを持っているならそれと交換で情報を教えるがな」
まるで楽しげに話すディー。
それが何だか期待するような顔にも見えた。
この男は、自分の知らない情報があるならばどんなものでも自分の持っている情報と交換してまでも知識を蓄えようとしている。
何となく、千歳はそう思えた。
だが、生憎とこの世界に来たばかりの千歳にとって情報など高が知れている程度だ。
だから早々に千歳は情報なんてありませんと苦笑して、ディー達に再度お礼を言ってからルメリオ亭を離れた。
それから暫らくは街中を散策するように歩いた。
理由は、次に行く町か村の事を知ろうと思ったのだ。
それならディーに聞いた方が早いとも思ったのだが、あまりにも此処に着てからお店や先程の情報などお世話になり過ぎていて気が引ける思いがあった。
それに、ロンダーの近くにある街や村のことならそこらにいる人でも知っている事だろうと思って千歳はあえてディーに聞かなかった。
という訳で千歳が訪ねたのは、
「ん?なんだあんたかい。今日も何か買っていくのかい?」
前にベルケという食べ物を買った露店にいる恰幅のいい40代の女だった。
千歳はそうですねと言ってから、あまり値の張らない饅頭のような食べ物を買うと女に聞いた。
「あの、ここら辺の近くに町か村ってありますか?」
「町か村?うーん…そうだね……此処より大分小さいけど、アマデオって町とエルトの村、フィムド村、あとはベルツェの村くらいかねぇ」
腕を組んで思い出しながら喋る女に、千歳はしっかりと頭の中に町や村の名前を覚える為に繰り返し呟く。
「ここから一番近いのは…エルトの村だね。あそこは村の連中が良く来るもんだから此処で店をやってる奴らは大抵顔を知ってるよ。その次はベルツェ村だ。歩けば結構距離があるけど、馬車ならそう大して時間は掛からない。あそこの薬草とかは結構ここらで有名だね。何でも昔高名な方がいたらしいよ」
千歳は女が説明する話を聞き漏らさないように相槌を打つ。
頭の片隅ではベルツェ村が有名というのを初めて知ったと同時に、あの少年少女、そしてその両親や村の人たちを思い出していた。
「アマデオって町は治安はあまり良くないって話さ。警備隊がいるはずなんだけど、どうも歯が立たないらしいね。人数が多くて対処できないとかなんとか…。最後はフィムド村。ここはあたしゃ良くは知らないんだよ。かなり小さい村だって事以外は話にも出てきやしないからね」
そういうなり肩を竦める女。
だが、それでもこういった情報は有難いものだ。
少なくとも、此処の周りにどんな町や村があるのかある程度把握できた。
「教えてくれてどうもありがとうございます」
ぺこりと頭を下げてお礼を言う千歳。
女はキョトンとしたが、直ぐに豪快な笑顔に変わるとこう言ってきた。
「お礼をするんなら、もう一つ何か買っていきな!そうしてくれるならあたしゃもっと喜ぶよ!」
それには千歳も苦笑して、女の言う通りもう一つ饅頭のような物を買ってその場を離れた。
「ここから一番近いエルト村から行ってみようかな?」
アマデオは治安が悪いというので一人だとどうしても不安に思うし、フィムドという村は詳しくは知らないから行くのに躊躇する。
その結果エルト村にしてみようとおもったのだ。
そうして買った饅頭もどきを食べ歩いていると、なにやら人だかりが出来ているのを見つけた。
どうもつい先程騒ぎ出したようで、周りの者たちも知らずその騒ぎの中心を怪訝そうに眺めている。
だが、そんな周りの視線にも気付かずに真剣な表情をして話しているのは、
(この町の…警備の人かな?)
甲冑をした数人の男たちだ。
しかも、これから戦闘でも起きるかのように武器を手にしている。
流石にこんな物々しい格好をしているところを見ると、何か悪いことが起きたと分かるだろう。
だが、どんな事が起きたのか分からない。
それに、自分たちがそれに巻き込まれているわけではない。
その事から、少しすると周りの者たちは興味を無くしたかのように再び歩き出した。
千歳も、何かが起こったと思っていてもただそれだけしか思わず、エルト村へ行く為の準備をしようとそこから離れた。